今、この瞬間も、会社の通帳の残高と社員の顔を思い浮かべ、眠れない夜を過ごしていませんか?
「来月の給料、本当に払えるだろうか…」
「社員になんて説明すればいいんだ…」
その息が詰まるような感覚、痛いほどよく分かります。
何を隠そう、私自身がかつて、資金繰りの泥沼でもがき苦しんだCFOだったからです。
月末が来るのが怖くて、鳴り響く電話に怯え、社員と目を合わせることすらできない。
あの時の絶望感は、今でも鮮明に思い出せます。
社長の夢と、社員の生活。その両方を自分の手で壊してしまうのではないかという恐怖。
しかし、どうか希望を捨てないでください。
まだ打つ手は、残されています。
この記事は、過去の私と同じように、出口の見えないトンネルで孤独に戦うあなたのために書きました。
115社の赤字企業を救ってきた資金繰りのプロとして、そして、あなたと同じ痛みを経験した一人の人間として、この危機を乗り越え、未来を創るための「お金の羅針盤」をお渡しします。
さあ、一緒にこの嵐を乗り越えましょう。
目次
【緊急対応フェーズ】パニックを止め、今すぐやるべき3つのこと
頭が真っ白になり、何から手をつけていいか分からない。
それが今の正直な気持ちだと思います。
まずは、大きく深呼吸を一つ。
パニックは、いつだって最悪の判断を招きます。
冷静さを取り戻すために、今すぐ以下の3つのアクションを実行してください。
1. 全ての「お金の出入り」を1円単位で洗い出す
まずは敵を知ることからです。
手元の現金、全ての銀行口座の残高、そして今後1ヶ月の入金予定と支払予定。
これらを全て、1円単位で書き出してください。
これは、いわば会社の血液であるキャッシュの流れを正確に把握するための「緊急検査」です。
どんぶり勘定が一番の敵。
目を背けたくなるような数字でも、まずは現実を直視することが、全ての始まりです。
2. 支払いの優先順位を決定する
手元資金が限られている以上、全ての支払いを期日通りに行うことは不可能です。
ここで、支払いの優先順位を冷徹に決定する必要があります。
命の次に大切なのは、社会保険料と税金です。
これらは滞納すると延滞税がかかるだけでなく、最悪の場合、会社の資産を差し押さえられる可能性があります。
次に、事業継続に不可欠な仕入れ代金や外注費。
そして、もちろん社員への給与です。
この順位付けは、苦渋の決断です。
しかし、会社という船を沈ませないために、今は船長として非情な判断を下す勇気を持ってください。
3. 社長自身の役員報酬を全額カットする覚悟を示す
社員への給与支払いが遅れる可能性があるのであれば、社長自身が身を切る姿勢を見せるのは当然です。
今月から、ご自身の役員報酬は「ゼロ」にしてください。
これは単なる精神論ではありません。
後述する社員への説明や、金融機関との交渉の場において、「社長としてやるべきことは全てやっている」という姿勢が、あなたの言葉に重みと信頼性をもたらします。
社員への「誠実な」伝え方。絶対にやってはいけないNG対応とは
資金繰りの失敗は、後からいくらでも取り返せます。
しかし、社員からの信頼失墜は、会社の未来にとって致命傷になりかねません。
給与の支払いが遅れる、または満額を支払えない可能性がある場合、その事実をいつ、どのように伝えるかが、あなたの経営者としての真価を問われる瞬間です。
誠意が伝わる説明の3ステップ
伝えるべき内容は、シンプルかつ誠実でなければなりません。
以下の3ステップで、真摯に説明を行いましょう。
- 事実と原因の報告:まず、「給与の支払いが期日通りに行えない可能性がある」という事実を正直に伝えます。そして、なぜそのような事態に陥ったのか、その原因(例:主要取引先の倒産、予期せぬ売上減少など)を客観的に説明します。
- 心からの謝罪:次に、社員の生活を脅かす事態を招いたことについて、経営者として心から謝罪します。「本当に申し訳ない」という気持ちを、自分の言葉で伝えてください。言い訳や責任転嫁は一切不要です。
- 今後の見通しの提示:最後に、いつまでに、いくら支払えるのか、現時点で分かっている最大限の見通しを伝えます。もし分割払いになるなら、その具体的な計画も示します。「必ず全額を支払う」という強い意志を表明することが重要です。
この説明は、全社員を集めた場で行うべきです。
一人ひとりの顔を見て、誠心誠意、自分の言葉で語りかけるのです。
やってはいけないNG対応
一方で、絶対にやってはいけない対応があります。
これらは一瞬で信頼関係を崩壊させ、社員の離反や法的なトラブルを招きます。
- 嘘をつく・曖昧な説明をする:「すぐに入るから大丈夫」といった根拠のない嘘は最悪です。
- 責任転嫁をする:「景気が悪いから」「〇〇のせいだ」など、他人や環境のせいにするのは経営者失格です。
- 連絡を絶つ・雲隠れする:恐怖から逃げたくなる気持ちは分かりますが、これが最も信頼を失う行為です。
知っておくべき法的リスク
社員への給与支払いは、社長の「約束」であると同時に、法律で定められた「義務」です。
労働基準法第24条では「賃金支払いの5原則」が定められており、給与の遅延や未払いはこれに違反します。
違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があり、未払い賃金には遅延損害金も発生します。
これは単なる社内の問題ではなく、法的なリスクを伴う重大な事態であると認識してください。
【資金確保フェーズ】あなたの会社が使える「命綱」の全ルート
社員への説明と並行して、1円でも多く、1日でも早く資金を確保する動きが必須です。
あなたの会社が今すぐ使える「命綱」を、短期・中期・裏技の3つの視点で整理しました。
1.【短期】即効性のある資金調達法
今を乗り切るための緊急輸血です。
スピードを最優先に考えましょう。
| 調達方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| ファクタリング | ・審査が早く即日も可能 ・赤字でも利用しやすい | ・手数料が融資より高い ・売掛金の範囲内しか調達できない |
| ビジネスローン | ・審査が早く担保不要な場合が多い | ・銀行融資より金利が高い |
ファクタリングとは、要するに「未来の入金予定(売掛金)を前倒しで現金化する」ことです。
航海で言えば、目的地で売るはずだった積荷の一部を、近くの港で先に売って燃料代を確保するようなイメージですね。
2.【中期】公的機関を頼る
民間からの借入が難しい場合でも、セーフティネットとして機能するのが公的機関です。
国の制度は、嵐の中の「避難港」のようなものです。
- 日本政策金融公庫:政府系の金融機関で、経営が悪化した事業者向けの融資制度(セーフティネット貸付など)が充実しています。 民間よりも低金利で審査してくれる可能性があります。
- セーフティネット保証:信用保証協会が保証人となってくれることで、民間金融機関からの融資を受けやすくする制度です。 まずは最寄りの自治体の商工課などに相談してみましょう。
3.【裏技】見落としがちな資金源
灯台下暗し、という言葉があります。
意外なところに残された資金源がないか、確認してみてください。
- 生命保険の契約者貸付:もし会社で社長の生命保険(貯蓄性のあるもの)に加入していれば、解約返戻金を担保にお金を借りられる制度があります。 審査不要で、比較的低金利なのが魅力です。
- 小規模企業共済の貸付:もしあなたが小規模企業共済に加入しているなら、積み立てた掛金の範囲内でお金を借りられます。 無担保・無保証人で、驚くほど低金利です。
【未来構築フェーズ】二度と資金繰りで悩まないための「仕組み」作り
緊急事態を乗り切れたとしても、根本原因を解決しなければ、また同じ嵐に見舞われます。
嵐を乗り切るスキルだけでなく、二度と嵐に遭わない頑丈な船を造ることが、本当の経営者の仕事です。
なぜこの事態に陥ったのか?根本原因を冷静に分析する
売上は順調だったのに、なぜ?
多くの経営者がこの問いに悩みます。
原因は、売上と入金のタイミングのズレ、過剰な在庫、想定外の大きな出費など、様々です。
私がかつて担当した老舗の飲食店がそうでした。
味は一流で、お客様も入っている。しかし、社長が「職人の勘」に頼りすぎ、どんぶり勘定を続けた結果、資金がショートしてしまったのです。
私は共感しすぎるあまり、厳しい現実を突きつけるのが遅れてしまいました。結果、会社は倒産。あの時の悔しさは忘れられません。
だからこそ、あなたには同じ過ちを繰り返してほしくない。
感情を一度横に置き、数字という客観的な事実と向き合うのです。
私が115社を救った「未来予測型キャッシュフローシート」の考え方
資金繰りに悩む経営者に共通しているのは、「未来のお金の流れ」が見えていないことです。
私が顧問先にお渡ししているのは、まさに未来のキャッシュフローを予測するためのシートです。
これは、未来の「天気図」を手に入れるようなもの。
「3ヶ月後に雨が降りそうだ(資金がショートしそうだ)」と分かっていれば、今のうちから傘を用意する(資金調達に動く)ことができますよね。
漠然とした不安は、この「見えないこと」から生まれるのです。
明日からできるキャッシュフロー改善の第一歩
難しく考える必要はありません。
まずは、シンプルな資金繰り表で構いません。
Excelを開き、今後3ヶ月間の「入金予定」と「支払予定」を、週単位で書き出してみてください。
たったこれだけでも、お金が足りなくなるタイミングが可視化され、漠然とした不安は「具体的な課題」に変わります。
まとめ
ここまで、本当に長い道のりでしたね。
しかし、あなたはもう一人ではありません。
最後に、今日お伝えした最も重要なことを振り返りましょう。
- 緊急対応:まずはパニックを止め、①お金の洗い出し、②支払いの優先順位付け、③役員報酬カットを断行する。
- 社員への説明:誠意が全て。事実・謝罪・見通しの3ステップで、誠実に伝える。
- 資金確保:短期・中期・裏技、あらゆる選択肢を諦めずに検討し、すぐに行動する。
- 未来構築:根本原因を分析し、未来のお金の流れを可視化する仕組みを作る。
お金は、社長の「不安のバロメーター」です。
その針が振り切れてしまうほどの恐怖とプレッシャーを、あなたはたった一人で背負ってきた。
しかし、お金は同時に、会社の未来を創る「エネルギー」にもなり得ます。
さあ、数字に「血を通わせましょう」。
あなたの会社の心臓であるキャッシュフローを、もう一度力強く動かすのです。
そのための第一歩は、実にシンプルです。
まずは、電卓を握ることから始めてください。