あなたは今、ご自身の会社の数字を見て、漠然とした不安を感じていませんか?
「P/L(損益計算書)上は黒字なのに、なぜか手元にお金が残らない」
「銀行から融資の相談をすると、いつも『会社の安定性に課題がある』と言われる」
そんな悩みをお持ちの経営者の方は、過去の私と全く同じ状態です。
私はかつて、新卒で入った小さなアパレルベンチャーのCFOとして、華やかな事業の裏側で、常に資金繰りの綱渡りを強いられてきました。
特にリーマンショック後の3年間は、P/Lが黒字化してもなお、毎月の支払いに追われ、社員の給与を確保するために奔走する「泥沼」の日々でした。
あの時、私が痛感したのは、「社長の夢と社員の生活を潰すのは、いつも『情報不足』と『漠然とした不安』だ」ということでした。
そして、その不安の根源は、ほとんどの場合、P/Lだけを見て、B/S(貸借対照表)を無視していることにあります。
この記事を読むことで、あなたは「漠然としたお金の不安」から解放され、具体的な「未来を予測する力」を手に入れます。
お金は、社長の『不安のバロメーター』です。
元・資金繰り泥沼CFOとして115社の再生に携わった私が、B/Sを「未来を創るお金の羅針盤」に変える、具体的な読み解き方を情熱的に、かつ冷静にお伝えします。
さあ、数字に『血を通わせましょう』。
目次
なぜP/Lの「黒字」だけでは安心できないのか?(泥沼CFOの原体験)
多くの経営者は、毎月の損益計算書(P/L)をチェックし、「最終利益」がプラスであれば一安心します。
しかし、私がコンサルティングに入った倒産寸前の企業の多くは、直近のP/Lが「黒字」でした。
なぜ黒字なのに倒産するのか?
それは、P/LとB/Sが示す「時間軸」と「役割」が根本的に違うからです。
P/Lは「短期的な成績」、B/Sは「会社の体力」
P/L(損益計算書)は、売上から経費を引いた「利益」という、一定期間の経営成績を測定するものです。
例えるなら、「今月のテストの点数」です。
一方で、B/S(貸借対照表)は、会社が持つ財産(資産)と、その資金をどこから調達したか(負債と純資産)を、特定の時点で示すものです。
例えるなら、「あなたの会社の体力、財産、そして経営の土台」そのものです。
短期的なテストの点数が良くても、あなたの体力がボロボロで、借金まみれの土台の上に立っていたら、ちょっとした風邪(景気の悪化)でもすぐに倒れてしまうでしょう。
倒産の理由は「利益がない」ことより「現金がない」こと
黒字倒産の典型的な原因は、「売掛金の回収遅延」や「過剰な在庫」など、B/Sの「資産」側の問題に潜んでいます。
P/Lで売上が立っていても、そのお金がまだ手元になく(売掛金)、支払期日だけが先に迫ってきている状態です。
私の泥沼CFO時代、銀行から融資を断られたのは、「利益が少ないから」ではなく、「資産と負債のバランスが悪く、短期的な支払能力に不安がある」と判断されたからです。
経営判断において本当に大切なのは、今の利益ではなく、未来の不確実性に耐えうる「体力の構造」、つまりB/Sの健康状態なのです。
経営判断を変える「貸借対照表(B/S)」の構造を畑仕事で理解する
複雑に見えるB/Sですが、私はこれを「未来を育む畑の構造」に例えて解説しています。
B/Sは「左側」と「右側」の二つに分かれています。
資産(畑の道具と種)= 負債(他人から借りた水)+ 純資産(自分の土)
このシンプルな構造を、一つずつ分解していきましょう。
左側の「資産」の部:会社が持つ”種と道具”
資産の部には、会社が持つ経済的価値のあるもの、つまり「何をどういう形で持っているか」が記されています。
これは、畑仕事で言えば、「作物を育てるための道具と、その元となる種」です。
- 流動資産(すぐ現金化できる種): 1年以内に現金化できるもの。
- 例: 現金・預金、売掛金、棚卸資産(在庫)。
- 固定資産(長く使う道具): 長期的に使用・保有するもの。
- 例: 建物、機械設備、土地。
右側の「負債と純資産」の部:”水と土”の調達方法
B/Sの右側は、左側の資産(種と道具)を「どこから調達したか」、その資金源を示しています。
これは、畑で言えば「作物を育てるための水(借り物)と、基盤となる土(自分のもの)」です。
- 負債の部(借りた水:他人資本): 返済義務があるお金。
- 例: 買掛金、短期借入金(1年以内返済)、長期借入金(1年超返済)。
- 純資産の部(自分の土:自己資本): 返済義務のない、会社自身の財産。
- 例: 資本金(出資)と、過去の利益の積み重ね(利益剰余金)。
B/Sがバランスする意味:資金の「調達」と「運用」は表裏一体
貸借対照表(Balance Sheet)の名の通り、左側の「資産(運用)」の合計と、右側の「負債+純資産(調達)」の合計は、必ず一致します。
この一致が意味するのは、あなたが持っているすべての財産(資産)は、誰か(他人 or 自分)から調達した資金によって成り立っている、という厳然たる事実です。
経営判断とは、この「水と土」の調達バランスを最適化し、「道具と種」への適切な投資(運用)を判断する作業に他なりません。
あなたの会社は倒産しにくいか?B/Sから見る「3つの安全性指標」
B/Sの構造が理解できたら、次は「あなたの会社の財務構造は健全か?」を判断するための3つの指標を電卓で叩きましょう。
これらは、銀行が融資の可否を判断する際、最も重視する指標です。
| 指標名 | 畑仕事の比喩 | 計算式 | 中小企業の目安 |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 土台(土)の強さ | 純資産 ÷ 総資本 × 100 | 30%以上が安定の目安。50%を目標とすべき。 |
| 流動比率 | 短期的な水(現金)の備蓄 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 120〜150%以上が安心。 |
| 固定比率 | 道具(設備)の賄い方 | 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 | 100%以下が望ましい。 |
【長期的な安定性】自己資本比率:土台の強さ
これは、会社の総資本のうち、返済の必要がない「自分の土」(純資産)がどれくらいを占めているかを示す指標です。
自己資本比率が高いほど、借金に依存せず、外部環境の変化に強い「倒産しにくい」会社と言えます。
- 30%以上: 中小企業として安定性が良好な水準です。
- 50%以上: 理想的な財務構造であり、銀行からの信頼も厚くなります。
私の経験から言うと、この数字が10%未満の会社は、資金繰り上の「嵐」が来た時に持ちこたえられないケースが非常に多いです。
【短期的な支払い能力】流動比率:水の備蓄
流動資産(1年以内に現金化できるもの)が、流動負債(1年以内に返済が必要なもの)をどれだけ上回っているかを示します。
これは、「突然の支払いに対応できる現金をどれだけ備蓄しているか」という短期的な支払い能力を表します。
- 120〜150%以上: 短期的な資金繰りが安心できる水準です。
もし、この比率が100%を下回っていたら、それは「1年以内に支払うべき借金が、1年以内に回収できる現金よりも多い」という危険信号です。
すぐに、売掛金の回収や在庫の圧縮といった対策を打つべきです。
【固定資産の健全性】固定比率:道具の賄い方
固定資産(建物、機械などの長期的な道具)を、返済不要の「自分の土」(自己資本)だけでどこまで賄えているかを示す指標です。
- 100%以下が望ましい: 100%以下であれば、すべての固定資産を借金に頼らず、自己資本で投資できていることになり、長期的な財務安定性が高いと判断できます。
もし、この比率が100%を超えている場合、それは「長期的な道具」の投資を、短期の借入金などの「借りた水」に頼っている状態です。
それは、畑仕事において、次の雨がいつ降るか分からないのに、高価な大型機械を借金で一気に揃えるような危険な行為です。
神田流:B/Sを未来予測の「羅針盤」にする3つのアクション
B/Sをただの決算書で終わらせず、あなたの会社の未来を予測し、行動を決定するための「羅針盤」にするための具体的なステップをお伝えします。
アクション1:現在の自己資本比率を把握する
まずは、先述した3つの指標、特に自己資本比率を直近のB/Sから計算してください。
そして、その数字を社員にもオープンにし、会社の「体力」を共有しましょう。
数字を隠すのではなく、「私たちは今、土台を強くするフェーズにいる」という共通認識を持つことが、全社一丸となって利益(土)を積み上げるための情熱的な動機付けになります。
アクション2:銀行との「対話」を準備する
銀行は、融資の際、必ずB/Sを見ます。
P/Lの利益の話だけでなく、自己資本比率、流動比率、固定比率という3つの観点から、「なぜあなたの会社は安定していて、成長への投資余力があるのか」を論理的に説明できるように準備してください。
ただお金を借りに行くのではなく、「未来の事業計画を実現するための、健全な投資バランスの提案」というスタンスで臨むべきです。
アクション3:B/Sを年一回ではなく「月次」でチェックする
決算時だけB/Sを見るのでは遅すぎます。
資金繰りが安定している会社は、P/Lだけでなく、月次の試算表でB/Sの変動をチェックしています。
特に、「売掛金(資産)」と「短期借入金(負債)」の増減を月ごとに追跡してください。
これにより、資金ショートの兆候を数ヶ月前からキャッチし、資金繰りの「嵐」を事前に予測することが可能になります。
まとめ
私は、お金の不安を抱えながら、夜中に一人で決算書を眺めていた、かつてのあなた自身の姿を知っています。
しかし、もう心配はいりません。
お金の不安を解消することが、経営者が本来集中すべき「価値創造」の活動を後押しすると、私は固く信じています。
貸借対照表(B/S)は、あなたの会社の「根っこ」であり、未来の可能性を秘めた「土台」です。
まずは、電卓を握ることから始めましょう。
あなたの会社の「お金の不安」を、明日への「成長のエネルギー」に変える具体的な一歩を、ここから共に踏み出しましょう。